大切な人を傷つける前に…呪い生還者が語る「勇者病」

治療連の発表によると、今年流行の呪いは勇者の呪いと断罪の呪いだ。今回は勇者の呪い(通称、勇者病)の元罹患者が経験した症状と治療について話を聞いた。

呪いに強いはずなのに? 羽なし妖精族Bさんの経験

キングシェイド王国領ソワニーに在住のBさん(仮名)は、羽なし妖精族の青年だ。普段は薬草店で調合助手として働きつつ、勇者隊の隊員としても活動している。

Bさんが勇者の呪いに罹患したのは、5年前の冬のことだ。若者グループが呪い溜まりに落ちたという通報を受け、救助活動に参加。呪い溜まりに3時間ほど潜入し、5人の命を救った。この救助中に勇者の呪いに罹患したとみられる。

「呪い溜まりに入ったので、呪いに罹るリスクは承知していました。でも羽なし妖精は呪い耐性があるので、かかっても軽症だと思っていました」

Bさんの認識は一般的なものだろう。羽なし妖精族は呪いに強いことが知られており、呪い耐性の高さから呪い負け関係の救助活動を担っている。しかしBさんが罹患した勇者の呪いは、羽なし妖精族にとって要注意の呪いだった。

早期発見でも急激に悪化 好発体質とは?

Bさんは勇者隊に所属していることから、定期的な呪い検査を受けており呪いに罹患したときにも早期発見ができていた。Bさんは呪いの症状が現れる前に治療に入ったが、早期に治療を完了することができなかった。

その理由はBさんと勇者の呪いの相性にあったという。

「解呪師からは、勇者の呪いの好発体質だと言われました。症状が出やすく治りにくいらしく、治療は長期化を覚悟しました」

特定の呪いに極端に弱い魔法学的体質を、特定呪症好発体質という。Bさんの場合は勇者の呪いの診断が出た時に、勇者の呪いのみ症状が悪化しやすい体質だと判明した。

Bさんは症状未発の時点から治療を続けたが、勇者の呪い症状は急激に悪化していった。

良いことしすぎで命の危険が 体傷療法も限界に

Bさんの初期の呪い治療は、軽めの体傷療法と自宅療養を組み合わせていた。自宅療養では解呪師の助言を守り、議論を避けるなどして生活していた。しかし、道行く人を助けるなど勇者の呪いの症状が治まることはなかった。

「家族も症状が出ないように気をつけて見ていてくれたんですが、人助けをやめさせるのは難しかったみたいですね。だんだん人助けがエスカレートして、ケガをするようになっていきました」

Bさんの呪い症状は軽微な人助けから始まり、徐々に命を顧みない人助けに没頭するようになっていった。治療院への通院よりも人助けを優先してしまうことも多くなり、呪いは急速に悪化していった。

大きなけがをすると体傷療法は選択しづらくなっていく。Bさんが呪いによって危険な人助けをするたびに、治療は困難を極める悪循環に陥っていた。

正義の反対はまた別の正義 ついに家族にも蔓延し大事故に発展

Bさんの呪い症状が顕著になってきたころ、家族から人助けを咎められることが多くなってきた。Bさんは異常な人助け衝動が呪い症状であることを治療院で説明されていたが、自分の意思で人助けをしていると説明してしまった。家族とは意見が衝突し、日常的に苛烈な言い争いをするようになっていた。

「呪いに罹っていると知っていたし、どういった症状が出るのかも知っていました。でも、いざ呪いが深刻化してくると、自分の意思で動いているような気がしてしまうんです。治療院へ行くように説得する家族との口喧嘩も絶えませんでしたし、これほど呪いがどうにもならないものだとは思いませんでした」

Bさんは当時、すでに自分の言動をコントロールすることができなくなっていたという。そして呪いは家族に移ってしまった。Bさんの家族に勇者の呪いが移ったのは、Bさんの罹患判明からわずか3か月後のことだった。

Bさんから勇者の呪いが移ってしまった姉は、Bさんに呪い治療を受けさせるため命がけでBさんの人助けをやめさせようとするように。Bさんと姉は剣と魔法を持ち出しての大バトルを繰り広げ、自宅が全焼する大事故に発展した。

Bさんと姉はソワニー県警に逮捕され、すぐに治療院へ強制入院となった。2人は魔法学的治療と心理学的療法を組み合わせて呪いから回復し、現在は元通りの生活を送ることができている。

Bさんは呪い経験について、

「軽症で済むと思っていたのに、家族と殺し合いをするまで悪化してしまった。持って生まれた呪い耐性に安心することなく、きちんと呪い治療に向きあうべきでした。勇者の呪いは初期症状の段階では問題を起こさないので、特に症状の悪化には注意してほしいなと思っています」と、振り返った。