一日一事 世界びっくりグルメ紀行「三代つづく豚人間のトンカツ屋」

パラパシティで50年 老舗トンカツ屋

毎度おなじみ、至高の美食家メーグルマンである。

東魔法大陸のパヤパパ妖精王国の首都、パラパシティで最も愛されている定食屋はどこか?候補はいくつかあれど、私の答えは決まっている。

50年も前からこの地で愛されているトンカツ屋、「しじま」である。

店主はなんと豚人間

この店を知らない人にまず特徴を一つ上げるならば、店主のキャラクターであろう。妖精王国に所在する定食屋であるが、店主は豚系の獣人である。

噂を聞きつけたものが興味本位で立ち寄り、その味に魅了されてしまう様を私は何度も見てきた。

実直で確かなトンカツが人気

名物のトンカツは衣を「ソフト/ハード」の2パターンから選ぶことができる。ざっくりとした衣の食感を楽しみたいならソフト、肉の存在感を感じたいならハードがおすすめだ。優柔不断な方には、ハーフ&ハーフという選択肢もある。

こだわりの豚肉を分厚くカットし、材料も極限までシンプルに。3代にわたって継承されてきた揚げの技術で、衣にうま味を閉じ込める。

出来上がりは早く、注文した客は揚げ上がりを待って、自分で配膳する。常連が置いていく多種多様のソースで好きなようにかけて食べることができる。この店には「塩だけで」などと強いる者はどこにもいない。

「ちゃんと揚げるとこまでがオレの仕事。上手く食うのは客の仕事だよ!」

ギトギトの厨房でほほ笑む店主は、サッパリした性格のようだ。

「共食い」「不謹慎」非難はねのけ50年営業

今でこそ皆に愛されている「しじま」であるが、1代目の店主は苦難の時代を過ごしてきたという。

苦難の原因は想像に難くないだろう。店主の見た目である。

開店当初は豚系獣人の店主が豚肉料理を作ることについて、「共食い」「不謹慎」「食欲が失せる」といった非難が相次いだ。パラパシティは獣人の少ない地域であり、獣人の料理人にショックを受ける人も多かったのだろう。

一時は閉店寸前にまで追い込まれたが、地道にファンを増やし営業を続けてきた。

豚人間は人間 野菜も食うし、肉も食う

先代、先々代が苦労を重ねてきたことについて、店主はこう語る。

「獣人は獣と人間の合いの子だと思われてるけど、基本は人間なんだ。野菜も食うし、肉も食うよ。俺なんか豚人間だけど、焼き肉大好き。そういう事を知らないで、うまいもんを食べ逃しているのはもったいないね。じーさんもオヤジも、そういう考えの人」

看板の豚はオレだよ 店主のユーモア

獣人への理解を促すために、最近店主は看板を掛け変えたという。「しじま」の屋号の隣には、名物のとんかつをおいしそうにほおばる豚人間の姿が描かれている。

「豚が豚食ってるのは何事だっていう人もいるんだけどさ、オレの顔見ると納得するみたい。獣人と獣を分けて考えられる人が増えてほしいよね」

幾多の偏見を乗り越えて、食べ継がれてきた「しじま」のトンカツ。パラパシティに立ち寄った際には、立ち寄ってみてほしい。