私もまた一魔族運動 東西魔法大陸に広がり見せる
魔族への理解求める市民運動広がる
DEBFY+の呼称がずいぶんと浸透した昨今。”魔族”という言葉は、すでに死語となった感がある。魔族の呼称に強い抵抗を覚える非魔法人も増えている。非魔法人の多くは、魔族をDEBFY+と言い換えることこそが共生と理解の意思を示すと考えているからだ。
しかし、当事者たちの間では議論は次なる展開を見せている。
私もまた、一魔族
意外なことに、魔族にアイデンティティを置く人々が若者を中心に増加。自らをあえて「魔族」と自称しているのだという。
このような現象は、「私もまた、一魔族」という合言葉と共に広がっていった。すでに東西魔法大陸全土で中小規模のデモが頻繁に行われているという。
勇者隊に遭難者が暴言吐く動画きっかけ
「私もまた、一魔族」運動のきっかけとなったのは、個人誌サービス各社のコモンヘッドに掲載されたニュースだった。
呪いだまりに陥落した遭難者が、救助に来た勇者隊のメンバーに向かって暴言を浴びせた事件が取り上げられていた。記事内の動画を確認すると、遭難者は「勇者って魔族だったの!?」「絶対に来ないで、信用できない」「私を食べるつもりなんでしょう」といった暴言を次々と投げかけていた。
遭難者は多少暴れたものの、勇者隊によって取り押さえられ救助は無事成功した。しかし、公益のために働く勇者隊が日常的に誤解や中傷にさらされている事には落胆の声が上がった。
また、当事者からは救助に当たった勇者隊メンバーに対して「私もあなたと同じ魔族だ」と共感や励ましの声を送る動きが生まれた。これが市民運動化したものが「私もまた、一魔族」運動だといえる。
勇者隊は魔族メンバーが8割以上
勇者隊は、呪いに関係する災害の際に人命救助を行う公益組織である。妖精のヒロイック族が小国時代に始めた呪い成敗の旅団が前身だと言われている。
現在も多数の勇者隊が存在し、そのほとんどが魔族を中心としたメンバー構成となっている。勇者ユニオンによると、勇者隊に関わる仕事をしている人々のうち、魔族や魔族をルーツに持つ人々の割合は8割以上である。
DEBFY+への認識広がるも…ステレオタイプが分断を生む結果に
このように、勇者隊の救助班は魔族で当然だといえる。それではなぜ、今回の遭難者は魔族に対する差別的な暴言を繰り返してしまったのだろうか?
この疑問について「私もまた、一魔族」運動をけん引する一人、アイビーリブ氏はDEBFY+の功罪と関係しているという。
「私たち魔族は種族の垣根を越えて、古来より連帯してきました。しかし非魔族の人々との共生を考えたときに、DEBFY+というパッケージで理解を求める必要があった。これにより我々の多様な生活スタイルや生態が認識されるに至ったわけです。
でも、DEBFY+が魔族に代わる呼び方と認識されてからですかね。私たち魔族を善玉/悪玉とか亜人/魔物とか、都合よくカテゴライズしてしまう非魔族が増えたように感じます。”天使はほとんど人間だから友だちになりたいけど、悪魔や獣人とは口を利かない”といった、より細やかな差別も発生しています。
今回の暴言はその典型例でした。非魔族とは異なる外見のメンバーを見て、”モンスター系の魔族”だと恐怖してしまったのでしょう。」
アイビーリブ氏をはじめとする「私もまた…」運動のメンバーはこう考えている。「DEBFY+は人々の魔族に対する理解を深めたが、それと同時に分断も引き起こしてしまった」と。
運動リーダー「差別の木焼き払うつもりない」寛容と教育の先に解決望む
「私もまた…」運動の目的は、①DEBFY+で分断された魔族の連帯を取り戻すこと、②魔族に対する人々の理解を促進し魔族問題についての寛容さを向上させること、である。
彼らは魔族としての結束を希求しながらも、非魔族との対決姿勢には消極的である。対立構造を起爆剤とせず緩く連帯することで、よりフラットな議論ができる環境を作り出そうとしているようだ。
「我々は差別の木を焼き払うつもりはありません。病気を持った木が一本あっても、健康な木々が多ければ森を残すでしょう?私たち魔族は、人間と豊かな社会を作っていきたいのです」
アイビーリブ氏のまなざしには、魔族の誇りと人間への愛情が共存していた。