呪いの専門家・解呪師 需要増なのに人手不足…その理由とは
文字泉開発で高まる呪いリスク 解呪師は需要増
青い鳥文字泉の開発中止が呪い漏れだったことで、解呪師の人手不足に注目が集まっている。
呪いというと冬場にかかるイメージがあるだろう。しかし、文字泉の開発が進む昨今、人々は通年を通して呪いリスクにさらされている。
解呪師の人手不足が深刻化
今後ますます需要が高まる解呪師であるが、その担い手は少ない。治療現場は慢性的な人手不足に悩まされている。
現役解呪師たちは、過酷な労働を強いられている。超長時間労働や連日の当直勤務は当たり前だという。若い魔法使いには解呪師を忌避する傾向が強まり、人手不足のスパイラルに歯止めが利かない現状だ。
過疎地域や空上国家では1000人に1人以下のケースも
それでも都市部には魔科学協働運営の総合病院が設置され、解呪師の治療にアクセスする機会は保障されているといえよう。
しかし、過疎地域や空上国家ではそうはいかない。地域によっては解呪師がほとんど存在せず、人口1000人当たり1人以下の解呪師配置で生活している人々も少なくない。こういった地域で呪いにかかってしまうと、軽度の呪いでも命取りになりかねない。
呪い師違法化は正しかったのか?人手不足に拍車
解呪師のなり手がこれほどまでに減少したのは、ここ50年の間のことである。解呪師関連法の整備が、人手不足の一因と考えられている。
50年代に呪い師が違法化 解呪専門に
5950年代、呪いに関わる魔法使いたちの魔法運用に法規制が入った。通称で解呪師法とよばれる関連法は、魔法使いが呪い魔法を使用することを禁止した。
それまで呪い適性のある魔法使いは、呪いと解呪の両方を専門としていた。彼らは呪い師と呼ばれ、呪いの専門家として多方面で活躍していた。
しかし法規制後は呪い師の名称が廃止され、呪い適性のある魔法使いは解呪のみを行う専門職となった。
治療を受けやすくなったが、現役解呪師は半減…
法規制の根拠としては、呪い師が様々な陰謀に関わりすぎていたことや、呪い師のイメージが悪化して解呪治療を受けない人が増加したことが挙げられている。
解呪師法施行後は解呪治療へのアクセスが良くなり、呪いで命を落とす人は大幅に減った。しかし、呪いを禁止されたことで解呪からも離れてしまった魔法使いは少なくなかった。
解呪師養成がはらむ倫理的な問題
多くの呪い師たちは、どうして解呪師の道を選ばなかったのだろうか?
その理由は、解呪専門になることのリスクが大きすぎたからだといわれている。呪いと解呪はセットで行わないと、魔法使いの心身に悪影響なのだ。
呪いを解く仕組みと呪い中毒
解呪は患者と呪いを共有し、呪いを無効化する仕組みだ。解呪は患者と解呪師が運命共同体となって行われている。
解呪を担うものは治療のために自ら呪われにいく必要があり、解呪に成功したとしても呪われたという事実は残る。1度2度の解呪ならば問題にはならないが、継続的に解呪を繰り返していると、今度は「誰かを呪いたい」という欲求が高まっていく。
解呪経験が原因で誰かを呪いたい状態のことを、呪い中毒という。
解呪と呪いはセット 魔法使いを守る慣習だった
呪い中毒を回避するためには、日々少しずつ呪いを発散するしかない。呪い師の時代には、解呪してもらった患者の家族が呪い師から嫌味を言われるのが慣例だった。
これは呪い師が引き受けた呪いを小さな呪いとして発散し、呪い中毒を防ぐために行われていたことである。
解呪と呪いをセットで行う、これは解呪をになう魔法使いの心身を守るのに必要なことである。50年前まで呪い師が呪いと解呪を両方行っていたのには、正当な理由があったというわけだ。
自分たちを守るすべだった呪いを禁止された呪い師たちが、解呪専門になることを拒んだのも納得がいく。
呪い封じられた解呪師 抱えるリスクとは
解呪による呪い中毒を防ぐすべを失った解呪師たちには、ほかの治療者や魔法使いに比べてはるかに大きなリスクがある。
呪い師より高い解呪師の呪いリスク・精神疾患リスク
まず言うまでもなく、解呪師は呪い中毒のリスクが高い。呪い師時代には正当な理由で行っていた小さな呪い返しも、現在は禁止されている。解呪師は、患者にわずかな呪いも返すことができない。
解呪経験による呪いへの希求は自分で対処するしかなく、呪い中毒になる解呪師は非常に多い。
「解呪師だけ毒舌というわけにはいかない」 病院勤務の辛さ
特に、病院で医学系スタッフと共に働く解呪師は、呪いを抱え込む傾向にある。
医学者は治療を進めるにあたって、感情を過剰にコントロールすることを求められる。患者には共感的な態度で接する必要があるし、自身の気持ちなどお構いなしで冷静を装ったり笑顔になったりする。魔法使いである解呪師には絶対に推奨されない類の感情労働だ。
しかし魔科学協働の総合病院では、解呪師にも医学系スタッフと同様の感情労働を強いることがある。患者には医学系スタッフと解呪師の区別がつかない。そのため、「患者を怒らせないように、優しい丁寧な対応をしてくれ」と求められるのだ。
もちろんこのような要求は、魔科分離の法則に反する。解呪師は拒否する権利があるのだが、新人などは求められるがままに「いい人」を装ってしまうこともある。
こうした職場でのストレスが原因で、精神疾患を患う解呪師も激増している。
呪い師復活が解呪安定のカギ 大魔導士の見解
解呪師が専門の大魔導士・ディオンディーヌ氏は、呪い師復活が安定的な解呪のために不可欠だと語る。
「健康体の魔法使いが、わざわざなんのメリットもないのに呪いを受けて解呪して差し上げるのが今の解呪師。
呪われ風情が大きな顔して、多少の金銭で代償を払った気になっているのには全く納得がいきませんわ。
解呪の呪いは半返し、これが本来のあるべき姿です。
医学のサル山でふんぞり返ってる医師たちも、解呪師に敬意を払うべきです。彼らがちんたら手術しているうちに、私たちは瀕死の患者を5人も解呪するわけですから。
手先の看護師が同等の立場で態度を改めろと迫るのも、魔科分離に反する重大なハラスメントです。彼らは針の穴ほどの狭い視野で自分たちが良いと思う態度を押し付けているだけで、解呪師としての良い態度がどんなものか1マークルほども理解していないのですから。
これらの課題を解消するためには、解呪師法を改正して呪い師としてあるべき姿に戻す必要があります。
解呪師たちの労働環境が改善されない限り、わたくしたちは解呪師養成に力を注ぐ気にはなれませんわ。どうせわたくしたちは呪いに強いですもの。」
解呪師法改正の議論のゆくえは? 今後に注目
さすが呪いの大魔導士。非常に厭味ったらしいコメントであるが、内容は的確である。
解呪師法を改正する議論はまだまだ始まったばかりだが、解呪師の待遇は改善されるべきだ。本紙でも今後の展開を注視していく。