一日一事 あの人を探して 命の杖の持ち主 後編

ジンジョー探偵事務所。それは複雑に入り組んだ人間関係に鋭く切り込み、知られざる人と人のつながりを発見する探偵コラムニスト集団である。

前編までの話

今回の依頼人は、西魔法大陸モンコルビ妖王国にお住いのネギくん5歳と、そのお父さんだ。

息子が大切にしている妻の形見は『命の杖』ではないか?という依頼である。探偵と依頼人は命の杖博物館に急行し、学芸員に形見を調査してもらった。

すると、形見は魔法使いの杖の一部であることが判明。命の杖博物館から東部魔科学研究所に紹介してもらい、詳しい解析結果を待つことにした。

以下は担当探偵であるジンジョー・タムの報告レポートである。

解析結果からワーピストの杖と判明

3時間に及ぶ解析の結果、学芸員さんから衝撃の事実が報告されました。

タム:東部魔科学研究所さんで3時間の解析が終わりました。ネギくんのお母さんの形見は、命の杖だったんでしょうか…?

学芸員:はい、解析の結果、これは命の杖でほぼほぼ間違いないという結果が出ました。というより、もう…これは命の杖です。

冷静なイメージの学芸員さんが妙に興奮しているため、探偵は詳しく話を聞くことに。すると、ネギくんの母の形見には、とんでもない秘密が隠されていました。

命の杖の可能性非常に高い 理由は内臓メッセージ

学芸員:少し見えていた魔法石ですね。これに内蔵されたメッセージが発見されまして。おそらく杖の持ち主が、杖が壊れた時に一度だけ見られるようにしたものだと思います。

タム:メッセージが入ってたんですか!

学芸員:おそらく、ネギくんのお母さん、奥さんですね。その方が読まれて、それで大切に持っておられたんだと思います。

依頼人:ああ…

依頼人のため息が聞こえた。そうである。ネギくんと依頼人は親子だが、実は血のつながりが無い。杖の中のメッセージは、それを証明する内容になっているかもしれないのである。

依頼人親子に覚悟を聞く:息子編

メッセージを読む前に、探偵は依頼人親子に意思確認を取ることにしました。メッセージの内容によっては、親子の絆にひびが入るかもしれないからです。

まずはネギくん。

タム:ネギ、魔法使いの杖やったな

ネギ:言ったやろ

タム:メッセージが入ってたらしいやん、見たい?

ネギ:見たい

タム:でもな、あの杖バラバラだったやんか。もしかしたら、辛い気持ちになるかもしれんで。

ネギ:いいよ

タム:いいの?

ネギ:それが責任やと思う

タム:責任か。

ネギ:うん

ネギくんの覚悟は十分のようだ。次はお父さんへ。

依頼人の覚悟を聞く:お父さん編

タム:お父さん、杖の持ち主からメッセージが入っておりました。

依頼人:はい

タム:確認なんですが、お父さんはこの形見がネギくんの血縁上の父親のものかもしれないと、ちょっとだけ思ってるわけですよね。

依頼人:はい、そうですね。妻の…前の夫の形見かもしれない…

タム:もしそうだった場合に、メッセージを読むと親子関係が壊れてしまうんじゃないかと不安がありますよね

依頼人:そう、ですね…

タム:読む覚悟、ありますか?

依頼人:……

タム:実は、無いときのために、こちら。ニセのメッセージをご用意してます。

依頼人:ああ、ニセの。

タム:こればっかりはお父さんが決めていただくしかないです。ちなみに、ネギくんは「それが責任だ」と。

依頼人:あの子がそう言いましたか?

タム:はい。

依頼人:ああ、なんということだ…

依頼人の目から涙がこぼれた。ネギくんの覚悟の言葉は、数年前に依頼人がかけた言葉だという。

依頼人:妻が亡くなったときにね、形見分けをしたんです。息子は当時3歳だったんですけど、でも、いくら小さくても、やっぱりそれは受け止めなくてはいけないと。それが遺された者の責任だと、言ったんです。

タム:ネギくん、覚えてたんや

依頼人:読みます

タム:読みますか?

依頼人:はい、読みます。覚悟決めました。何があっても、ネギは息子です!

タム:よっしゃー!読みましょう!

依頼人の覚悟が決まり、杖の内臓メッセージをみんなで読むことにしました。このとき探偵がちょっと泣いたのは内緒です。

自らの命と引き換えに… 命の杖の真実

学芸員さんが、内臓メッセージを転写した紙をいただきました。探偵が代読します。

最後の杖を持っている方へ

この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にいないのでしょう。そして、最期にあなたを助けられたのでしょう。
ケガはありませんか?無事に安全な場所に避難できましたか?

もしもお金に困ったら、この杖を魔法使いに売ってください。
でもその前に少しだけ、この手紙を読んでください。


私は東魔法大陸キングシェイド王国で生まれた魔道士です。時空魔法の才能に恵まれ、王国付きのワーピストになりました。
はじめは国内をワープする仕事をしていましたが、南北戦争が始まって状況は一変しました。

同僚のワーピストと共に、毎日毎日何百何十といった兵士を戦地に送る仕事が始まったのです。ワープ補助に大型の魔法石を使っていたとはいえ、過酷な勤務でした。

そんな時、私は大きな過ちを犯してしまいました。時空遭難です。
一小隊とワープする際に集中を欠き、時空の狭間に彼らを落としてしまいました。

私は杖があったので元の場所に回収されましたが、兵士たちが戻ることはありませんでした。
罪の重さに耐えきれず、私はワーピストをやめました。

しかし大陸が海没しているのを見て、もう一度ワープすることを決意しました。
私の今のワープ上限は23名。あの時の兵士たちと同じです。私は人生の最期に命をかけて、彼らの代わりに人々を救うことにします。

そして私は、最後に貴方を見つけました。だから、貴方は何も悪くありません。私はあの時、すでに死んでいたのですから。
これからの人生を楽しんでください。どうかご無事で。

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杖の真実に依頼人が涙…

ネギくんの持っていた母の形見は、まぎれもなくワーピストが遺した命の杖でした。ネギくんの母親は偶然ワーピストに発見され、それが彼の最期のワープとなりました。

依頼人が予想していた、ワーピスト=ネギくんの父親説は間違っていたということになります。

依頼人の奥さん、つまりネギくんのお母さんは、海没から避難した際にこの手紙を読んだと思われます。そして、自分を助けてくれたワーピストの最期のメッセージが入った命の杖を大切に保管していたのです。

タム:お父さん、どうですか?

依頼人:いやあ…こんな、大切なメッセージが入っているものだとは思わなくて。本当に、命の恩人さんだったんだと。

タム:ネギ、大丈夫か?

ネギ:かなしい…

タム:悲しいなぁ。命がけで助けてくれはったんやなぁ

学芸員:手紙の最終に、ワーピストの認識番号が書いてあるんです。奥様が大切になさっていたおかげで、遺族にも連絡がつきそうです。

形見は命の杖博物館へ 遺族の元に帰る

かくして、命の杖の調査依頼は幕を閉じました。それから2か月後、依頼人親子から事務所に連絡がありました。

命の杖だったネギくんの母の形見は、ネギくんの判断で命の杖博物館に預けられました。命の杖に記されていた認識番号から、遺族が発見できたからです。

ネギくんとお母さんの命を救ったワーピストは、杖だけですが家族の下へ帰ることができました。現在は命の杖博物館に寄贈され、依頼人親子のエピソードと共に展覧されています。