一日一事 あの人を探して 命の杖の持ち主 前編

ジンジョー探偵事務所。それは複雑に入り組んだ人間関係に鋭く切り込み、知られざる人と人のつながりを発見する探偵コラムニスト集団である。

妻の形見は命の杖ではないか?

今回の依頼人は、西魔法大陸モンコルビ妖王国にお住いのネギくんと、そのお父さんだ。

「ジンジョー探偵事務所の皆さんこんにちは。いつも楽しく拝見しています。

5歳になる息子もこのコラムが大好きで、『今日の一日一事は何?』と毎日尋ねてきます。そんな息子から、『もうこれは探偵さんに頼むしかない』という依頼がありますので、聞いてください。

妻の形見・謎の木のかけら

私たちは父一人子一人の親子なのですが、息子の母親・つまり私の妻はすでに他界しています。息子は生前に妻が大切にしていた『木のかけらのようなもの』を、形見として肌身離さず持ち歩いています。

その『木のかけらのようなもの』は、何かが砕けたような形状をしています。表面だったと思わしきツルツル部分と、砕けてボロボロになった部分があり、棒か置物の一部だったようなのです。

息子はこれを『魔法使いの杖だ!』と信じています。

しかし、妻は代々非魔法人の家系。魔法使いの知り合いもなく、妻が魔法の杖を持っていたとは考えられません。でも、何度説明しても、息子は木のかけらを魔法の杖だと言い張るのです。

しまいには親子喧嘩のようになってしまい、息子は『お母さんは魔法使いの杖でどこかに飛んで行ったんだ。きっと帰ってくる!』と泣きだしてしまいました。

親を亡くした子にはよくある話のようですが、息子の必死の訴えを聞いているうちにふと、思うようになりました。

『これは命の杖ではないか?』と。

妊娠中の妻を助けた魔法使いは誰?

というのも、私の妻は命の杖団に助けられた一人だったのです。

生前の妻によると、彼女はもともと北側大陸に住んでいたのですが、海没前の空上離脱に間に合わず。死を覚悟していました。しかし偶然、ワーピストの青年に出会って西魔法大陸に緊急避難。九死に一生を得たと聞いています。

妻を助けたワーピストの青年はおそらく命の杖団の一人だったと思われます。ただし、問題が一つ。その時、妻のお腹には息子がいたのです。

ここまで読んでお判りでしょうが、私と息子には血のつながりがありません。

私は避難後の妻に出会い、妊娠中と知りながら夫婦となりました。息子は実の息子と思って育ててきました。

でも、息子の話を聞いてどうしても気になってしまうのです。

『妻の形見は本当に命の杖なのか?』『もしそうだとしたら、妻はどうして杖のかけらを生涯大事に持っていたのか?』『偶然出会ったはずのワーピストの青年は、実は息子の父親だったのではないか?』と。

どんな結果になったとしても、私と息子が親子であることには変わりありません。しかしどうしても気になります。優秀な探偵さん、どうか一緒に調査していただけないでしょうか?」

命の杖らしきものを調査 恩人はワーピスト?

以下は担当した探偵:ジンジョー・タムの報告レポートである。

うちの探偵事務所には色々な案件が持ち込まれるんですが、今回の案件はその中でも歴代トップのゴチャゴチャした話という。

  1. 息子の話から、妻の形見は「命の杖」かもしれないと思った
  2. 妻は命の杖団に助けられた一人
  3. その時に妻は息子を妊娠中だった
  4. 妻は命の杖らしきものを生涯大切にしていた

このあたりの事実関係を精査して、真相を追求してきました。

なお、今回の依頼は依頼人の家族関係に大きな影響を与えかねないものでした。依頼人の心情に配慮しつつ、慎重に調査を進めていきました。

命の杖博物館で形見を比べてみる

タム:えー、今回は形見の調査ということで。ご依頼いただきました。

親子ということなんですが、実は血がつながっていないということなんですね。しかも、それを息子さんは知らないという話で。なんとも複雑なんですが、どうなってしまうんでしょうか…

依頼人(お父さんの方、以下依頼人と表記):あー!こんにちは

タム:あー、お世話になっております。ジンジョー探偵事務所探偵のジンジョー・タムと申します。

ネギ(息子さん。以下ネギと表記):タムだ!

タム:タムやでー!

形見を見せてもらう

まずはネギくんに、形見の木のかけらを見せてもらうことにした。

タム:ネギくん、魔法使いの杖持ってるらしいやんか。

ネギ:うん

タム:だいじ?

ネギ:うん

タム:なんで?

ネギ:母の形見だから

タム:そうか、母の形見か。だいじやな。

ネギ:見る?

タム:ええの?

ネギ:壊したらあかんで

ネギくんは形見を見せてくれた。普段は首飾りにして身に着けているらしい。依頼文の通り、ツルツル部分とボロボロ部分があり、棒か何かが砕けた時のカケラにみえる。

探偵がくまなく観察したところ、重要そうな特徴を見つけた。

タム:あ、おー?!なんかね、かけらの内側に、ビー玉みたいな石?が入ってますね。

依頼人:え?

タム:ここ、覗くとちょっとだけ見えてるんですよ

依頼人:あ、あー

タム:ネギも見てみ

ネギ:あるー!

タム:石のようなものが隠されているとなると、魔法使いの杖感は出てきますね。

依頼人:全然気が付かなかったですね

タム:これはちょっと、詳しく調べてみましょう

命の杖博物館へ

依頼人親子と探偵は、東魔法大陸の「命の杖博物館」へ。形見の木のかけらと命の杖をくらべてみました。

タム:今回は命の杖博物館の学芸員さんにも協力していただきます。よろしくお願いします。

学芸員:よろしくお願いいたします。

タム:まず命の杖というのは、どんなものなんでしょうか?聞いたことはあるんですけど、あんまり知らないというか。

学芸員:はい。命の杖とは、北側大陸が海没したときに人命救助を行ったワーピストの有志が使っていた杖です。

通常のワープ杖というのは、1メートルくらいの棒状のものなのですが。彼らはワープ上限を超えて救助を行ったので、折れてしまったり壊れてしまっているものも多数確認されていますね。

タム:カケラになってるものも、あるもんですかね?

学芸員:そうですね、そこまで無理をしたワーピストがいたかどうかは分かりませんが、可能性はあります。うちで所蔵している一番損傷の激しい命の杖は、こちらです。

依頼人:あっ!

タム:あー!めっちゃ木のカケラやー!

ネギ:僕のやん!

博物館に所蔵されていた命の杖は、思った以上に形見に似ていました。そこで、学芸員さんにネギくんの母の形見を見てもらうことにしました。

学芸員:……

ネギくんからカケラを渡されるやいなや、学芸員さんはルーペを取り出して真剣に観察を始めました。期待が高まります。そして5分後、結果が出ました。

学芸員:えーっとですね、確かに使用されている木材は魔法使いの杖によく使われるものだと思います。あとですね、この内部に封印されている石。これもたぶん魔法石です。

魔法使いの杖ということには、間違いないと思います。特にこれは杖の中枢部分で、玉上の魔法石の根元が折れたものだと思います。

タム:ということは、ネギの読みは当たってたってことか!

ネギ:な!

学芸員:ただし、命の杖かどうかはもう少し設備の整ったところで調べないとわからないんですね。なので…

東部魔科学研究所で形見を解析

ネギくんの杖のカケラを見た学芸員さんは、東部地区にある魔科学研究所に連絡を取ってくれた。形見を遠隔解析し、命の杖だったのかを詳しく検証するとのことだ。

博物館内で待つこと3時間…。学芸員さんから、解析結果が報告された。

後編へ続く

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