南北戦争の影に消えた戦士たち 森の奇族の悲劇
アンカー協定式典襲撃事件をきっかけに、森の奇族関連の問い合わせが殺到している。人々の恐怖に付け込んで、デマを流布する個人誌も多い。
そこで弊紙では森の奇族の正しい情報を発信することにした。
北側諸国の魔族戦士部隊 森の奇族
森の奇族とは、旧北側諸国の永久凍土近くにある「入らずの森」に土着する魔族の通称である。正式にはミタマ族という。
旧北側諸国といえば思想国家制度で知られるが、入らずの森は例外だった。ミタマ族は地縁血縁の自治を認められ、1000年以上入らずの森に定住していた。
見た目は人と同じ 命が3つの特性
ミタマ族の見た目は人類とほぼ同じであり、一見すると魔族とは思えない。しかし、「絶命しても2回までは生き返る」という不思議な特性がある。
この特性は3つの魂を持っているからとされており、ミタマ族の呼び名の由来となっている。
死を恐れない バーサーカー集団
3つの魂を持つミタマ族であるが、彼らの平均死亡年齢は100歳未満である。これは彼らの魂1つ1つが短い寿命だからというわけではない。
彼らは驚くほど戦闘に貪欲で、若くして亡くなる者が格段に多いのだ。通常は撤退するような状況でも敵陣に突っ込み、狙った標的はどこまでも追いかける。死地に赴くことにも全く躊躇しない。
せっかく人生3回分の寿命があるのに、無謀な戦闘スタイルを好んで命を捨ててしまう風変わりな人々。これがミタマ族が「森の奇族」と呼ばれるゆえんである。
魂を3つ持つ 戦士一族に起きた悲劇
「森の奇族」ことミタマ族は、先の大陸間戦争でも戦士を多数派遣した。彼らは北側諸国と思想を共有していないが、自治権を維持するためには参戦せざるを得なかったのである。
魔族が少ない北側陣営としてはミタマ族の戦士は強力な戦力だった。しかし、彼らに用意されていたのは名声ではなく、残酷な運命であった。
成人の儀を済ませずに最前線へ 犠牲となった未熟な戦士
ミタマ族は幼いころから戦闘の技術を教えられる。ただし成人の儀という通過儀礼を済ませるまでは戦士としては認められず、戦場にも赴かないのが習わしであった。
大陸間戦争でも、はじめはミタマ族が戦士と認めた者たちが徴兵されていった。しかし戦況が北側不利となっていくにしたがって、成人の儀を済ませない若者たちも徴兵されていった。
成人の儀の詳細は不明だが、成人の儀を済ませなかった未熟な戦士たちの犠牲は甚大だったといわれている。
魔族ハラスメント 追い詰められて脱走した戦士も
未熟な戦士たちだけでなく、歴戦の実力派戦士たちも苦境を経験した。
旧北側諸国はミタマ族の戦士を中心とした特殊部隊を編成し、様々な難局を突破していた。しかし、彼らの待遇は粗末だったという。
生活環境は「入らずの森の方が優しい」と言わしめるほどの劣悪さであり、通常の兵士(特殊部隊は本来通常以上の階級なのだが)とは同じ空間で生活することを許されなかった。
次々と放り込まれる過酷な戦場と、全く休まらない兵舎の生活により「森の奇族」たちは追い詰められていった。
彼らがこんな扱いをされていた理由は、彼らのふるまいや性質にはない。旧北側諸国で魔族に対するハラスメントが公然と行われていた。それだけの理由である。
過酷すぎる環境に耐えきれず、脱走を図るミタマ族の戦士も多かったといわれている。
戦士もまた被害者だった 悲劇忘れず共生の道を
森の奇族と呼ばれる魔族、ミタマ族について解説した。森の奇族というと得体のしれない戦闘狂のイメージがあるが、それはミタマ族の姿を正しく表したとは言えない。
こと先の戦争では、ミタマ族の戦士もまた被害者だったといえよう。彼らが巻き込まれた悲劇を忘れることなく、共生の道を模索したいものである。